小説の執筆に挑戦によって物語を作り力を培ってきた現在。「どうすれば人の心を動かせるのか?」という課題の追及は果てしなく、日々学びの日々です
今回のブログは、私が小説の執筆の経験から学んだ表現の本質についての気づきを綴っていくシリーズの3回目。今回は佐賀県文学賞受賞の経験を経て取り組んだ超短編小説執筆の挑戦と、その中での新たな気づきについて、ご紹介します。今回もこの記事が皆さまの何かしらのヒントになれば幸いです。
佐賀県嬉野市の老舗旅館で始まった“2000文字”の超短編公募 三服文学賞
2022年、佐賀県嬉野市の老舗旅館、和多屋別荘が主宰となって文学賞が始まりました。その名も“三服文学賞”。わずか2000文字、400字詰め原稿用紙に換算して5枚以内での作品の全国公募です。1000を超える応募があり、私は残念ながら該当サイトに次点候補として作品名とペンネームが掲載されるだけにとどまりました。
※上位作品は該当サイトに掲載され、選評と共に閲覧できます。どの作品も個性的で素晴らしい作品ばかりで、脱帽でした。
しかし、今回のような短編作品に挑戦したことは大きな収穫となりました。
“いかに書かずに伝えるか”を学ぶ
作品は2000文字以内と分量が決まっている為、物語を書く上で無駄な描写は一切、できません。だらだらと主人公の動きや風景の描写をしていてはすぐに文字数を超えてしまいます。その為、自ずと「いかに伝えたいものを端的で的確な表現によって伝えられるか」が課題となります。これはもちろん中編や長編でも同じですが。
その中で気づいたのが、“書かないことで伝えるようにする”という事への挑戦でした。
例えば、今回、私が書いた作品の主人公は若い女性でしたが、物語として彼女の話を展開していく上では最初にまず、彼女がいつどこで何をどうしようとしているのか、といった、いわゆる5W1Hに触れなけばなりません。
作品の設定は以下のようなものです。
主人公は新卒で入社した会社になじめず、わずか1年で自主退職を決めた女性、アキ。物語は、仕事がうまくできないせいで、職場の同僚や上司から蔑まれるような視線に耐えきれず、その感情を引きづったままの失意の退職を迎えた日から始まりまることになる。
物語は彼女が思い立った旅の行先で旧友との再会を果たし、前向きの気持ちを少しずつ取り戻していく過程を綴るものでした。しかし、この話を分かりやすさだけを求めて書こうとすると、例えば以下のように長くなってしまいます。
アキは退職の日を迎えた。新卒で入社し、一年が経った日だった。職場での仕事にはなかなかなじめず、上司や同僚からの蔑みの視線と態度に苛まれ、失意のうちに、会社を後にしたのだった。
主人公の状況は分かるものの、長く説明調であまり面白くはありません。その為、以下のように書き換えました。
「居るだけで迷惑だった」
勤務最後の日、女上司の強い語気と、蔑むような視線があたしの中で燻った。大学卒業後に勤めたIT企業は、結局一年掛けても馴染めなかった。
推敲する中で考えたのは、以下のような点です。
・主人公を1人称にしたこと→心情を描きやすくなる
・上司のセリフを入れた→冒頭のインパクトをつけて読者の興味を惹く
・時制と状況描写、心情を兼ねる表現を探る→一文章が短くなり、伝わりやすい
・主人公の心情をなぞる描写のみ描く→5w1Hの多くを兼ねる
そして最も力を入れたのが文体の言葉選びによって“いかに書いていないことを伝えるか”という点でした。
ここでは主人公であるアキの顔形や服装、背丈、年齢などの描写は一切していません。しかし、状況と心情が最低限、示すことによって読者に彼女へと興味を持ってもらうことを意識しました。この部分で大事なのはあくまで読者の主人公への感情移入だと考えたのです。
人は感情移入できないもの、つまり興味や関心を抱けない情報を押し付けられた時、「説明」だと感じてしまうものです。そのため、もし私が彼女の服装やら顔立ちやらを先に長々と描写していたら、それは読者にとって「説明」となり、読むのを辞められてしまうかもしれない。
だからこそ、ここで最も重要でかつ物語の推進力となる彼女の状況と心情を最も伝わる形で示さなければならない、と考え、このような表現に落とし込んだのです。
短編「春風の吹くころ」
https://higuchiworld.com/wp-content/uploads/2024/11/ff64be012adf61eead0a03a8c29a91f5.pdf
もちろん、これがどこまでうまくいっているかはわかりません。しかし、公募展に名前が載るくらいには通じる表現にはなっていたのだと、小さな評価も前向きに受け止めています。
実際に身近で率直な意見を言ってくれる間柄の女性の友人に読んでもらった際には、「心情がよくわかる」と好評をいただきました。
言葉には文脈というものがあり、歴史があります。ここで使った「迷惑」、「蔑み」、そして「燻る」、「馴染めない」などという言葉はこれまでも様々な文脈で使われ、そして読む人たちの中でそれぞれ、各々の極めて個人的で、かつ普遍的な経験や感情の記憶に結び付いています。私はこれらの言葉を使うことによって、読み手の経験を引き出そうとしました。語弊を恐れずに書くと読者の個々の感情記憶を、この言葉選びによって「利用」したと言えるのかもしれません。
これらの言葉は人の心情を表す言葉としてよく用いられるものなので、このチョイスによって人は自身の感情を自ら感じやすいのです。私はこの言葉を文体に編み込むことで、分量を減らすだけでなく、読者がこの言葉に触れて想起するであろう感情を想像しながら、次の言葉、さらに次の言葉を選んで物語を綴っていきました。最低限、読者の感情を引っ張り続ける言葉選びです。その挑戦の中には、テレビ番組制作経験の中で学んできた「初見の視聴者のほとんどは内容に興味や関心がほとんどない状態から始まる」という認識がありました。
その為、読み手の心に感情の楔を打つつもりで一つずつ一つずつ慎重に言葉を文章に、文体にと積み上げ、練っていく。この作品はそうしてようやく2000文字以内で書き上げることができたのです。
この考え方は映像コンテンツ制作にも応用できると考えています。
5分のVTRであれ、10分のVTRであれ、無駄なカットは1カットたりともない。テロップも同じです。すべてが視聴者に狙い通りのものを伝える為に計算され、理論の中で積み上げられたパーツで組みあがっています。
※過去のブログ参照
そして、このくみ上げはより端的にインパクトがあり、本質を取られられているものであればあるほど、結果的に「伝わる」ものとなる。これは振り返ってみると、本当に映像コンテンツ制作と同じ感覚でした。
伝える為に何が必要か、そして何が必要でないか
この事は表現の本質を考えていく上で非常に重要なことなのだと今でも感じています。
最期に2作目として翌年、応募した作品を掲載させていただきます。
短編「家族湯の澱」
https://higuchiworld.com/wp-content/uploads/2024/11/96ad1ea644df16d498bde300bfbd74c3.pdf
こちらは残念ながら掲載はされませんでした。お披露目の場がなく眠ってしまうのはもったいないと思い、手前みそながら公開させていただきます。
お時間あれば、読んでいただけれると嬉しいです。
クライアント様の要望により応えていく為、伝わる表現を突き詰めたい、という思いの元、私はこれからも小説執筆は続けていくつもりです。
そして、この取り組みの成果を今後も㏚動画制作や他の文章コンテンツ作成にも生かしていければと考えています。
これからもよろしくお願いします。
