視聴者をいかに想像するか?映像の訴求力を生むポイント

会社のウェブサイトを立ち上げ、今では企業や団体からも様々な案件でお声がけいたき、少しずつ映像制作の依頼をいただくようになりました。その中で気づいたことがあります。私のこれまでの仕事は、視聴者が「普遍的な価値」を感じ取ることができるコンテンツ制作でしたが、企業様や団体様向けの映像制作でもまた、ターゲット層に寄り添った視点や、より具体的なメッセージをどう伝えるかがポイントだという点です。

プロモーション映像は、対象とする視聴者に訴えかけ、共感を得ることを目指します。まずは依頼者様が伝えたいメッセージとターゲットのニーズを深く理解し、そこからどのような映像表現が効果的かを考えます。

そこでは企画段階から視聴者に響くためのアプローチが必要ですが、最も重要なことは「視聴者をいかに想像するか?」、その想像力を持つことです。

視聴ターゲットの具体化が作り出す価値

これまで私はテレビの番組制作において、一般視聴者の幅広い関心に応えることを意識しつつも、最終的には「すべての視聴者に普遍的な価値を提供する」ことを心がけていました。しかし、企業や団体向けの映像制作では、視聴ターゲットがより具体的に設定されているケースが多く、狭い層の関心に的を絞って伝えることが必要になります。

(㈱)大慶様 究極のご飯鍋PV(1:13)

たとえば、以前手掛けた「手軽においしいご飯が炊ける鍋」をアピールするプロモーション映像では、ターゲットは「忙しくもおいしい食事を用意したい主婦・主夫層」とでした。そうして仮に設定したペルソナの事例が以下の通りです。

1. ペルソナ名:Kさん(38歳、3人の子供を持つ主婦)

プロフィール
・年齢:38歳
・家族構成:夫、10歳、7歳、3歳の子供3人
・職業:専業主婦
・住まい:郊外の一戸建て住宅

ライフスタイルと価値観
・子供たちは食べ盛りで、特にお米が大好き。毎日の食事でお米の消費が多い。
・食事には家族の健康を気遣っており、できるだけ添加物を避けた「手作り」にこだわりたい。
・時間がないときは電子レンジや炊飯器を使用しているが、時々は土鍋で炊いたようなおいしいご飯を提供したいと考えている。

抱えている課題
・料理に時間をかけたくても、育児と家事に追われて余裕がない。
・手間をかけずに、簡単においしいご飯が炊ける方法を探している。
・家族全員が満足するようなご飯を提供したいが、忙しい日々の中で調理方法に工夫が必要。

ニーズ
・家族全員が満足するおいしいご飯が、少ない手間で炊ける。
・炊きあがったご飯に特別感があると、家族の食事が楽しくなる。
・コンロで簡単に扱える器具で、お米の味を引き出せるご飯鍋。


2. ペルソナ名:Tさん(45歳、単身赴任のビジネスマン)

プロフィール
・年齢:45歳
・家族構成:妻と高校生の息子が実家におり、月に1度ほど帰省
・職業:建設業界のマネージャー
・住まい:地方都市の単身用マンション

ライフスタイルと価値観
・仕事が忙しいため、夕食はついコンビニや外食に頼りがちだが、健康が気になる。
・普段は簡単な自炊しかしていないが、時にはご飯だけでも本格的に楽しみたいと思っている。
・時間をかけずに本格的な味を楽しめる調理法を好む。

抱えている課題
・仕事から帰宅してから食事の準備をする気力がないため、できるだけシンプルな手順でおいしいものを食べたい。
・自宅に帰省するときは、家族のために料理を作ってあげたいという気持ちがある。
・簡単に扱える鍋で、たまに贅沢なお米を楽しめると良いと考えている。

ニーズ
・炊飯器を使わずに簡単に炊けて、土鍋で炊いたようなふっくらご飯が楽しめる。
・保温機能は不要だが、短時間で香ばしいご飯が炊けるご飯鍋。
・一人分からでも炊きやすい手軽なサイズの鍋。

「新しいITサービスを中小企業の経営者層にPRする映像」では、経営者に響く価値観や信頼性、導入による利便性など、異なるニーズを意識して制作する必要があります。

また、一般的な紹介動画とは異なり、視聴ターゲットの具体像を踏まえることで、映像の内容が明確な共感や行動の引き金となることが求められます。そのため、制作を進める上では「ターゲットの生活スタイルや価値観を理解し、何を求め、何に困っているのかを具体的に想像すること」が重要となってくるのです。

視聴者が映像から得る体験と共感

実際の制作過程においては、視聴ターゲットを念頭に置き、映像を通して視聴者がどのように共感し、何を感じ、どう行動するかを具体的に意識します。例えば、「高齢者向けのサービスを提案する映像」であれば、サービスの安心感や日常のサポート、便利さをわかりやすく伝え、高齢者の家族がその価値をしっかりと感じ取れる内容にします。また、視覚的な演出やナレーションのトーンも、視聴者が安心感や信頼感を得やすいものを意識します。

ターゲット層の共感や興味を引き出すためには、映像に登場する人々が実際の視聴者にとって「自分ごと」として捉えやすいことが重要です。たとえば、サービスを実際に利用する人々のインタビューを通して、具体的な利用体験や感想を映し出すことで、視聴者が「このサービスなら自分にも役立つかもしれない」と感じてもらえるかもしれません。

映像に込める「想像力」

映像制作の現場で私が重要だと感じているのは「相手の顔が見えないと映像は伝わらない」という点です。映像の内容をリアルに想像し、そのリアルさが視聴者に届くかどうかを考えることが、結果的に良いコンテンツを生み出す要素となります。私が十数年間、映像制作に関わり、多くの人々と接し、様々な思いや価値観を持つ方々の声を表現してきた中で最も学んだのは「視聴者の気持ちを想像する力」でした。

そんな想像力を鍛えるためにはどうするか。

私の場合はとにかくたくさんの人たちの出会い、それぞれに深く話を重ねた経験が糧となりました。

 思えば学生時代は本当に世間知らずで、人間関係で失敗することも多々ありました。しかし、大学を卒業後、映像ディレクターとしてマスコミの仕事をするようになり、お年寄りから小さなお子さん、また弁護士や警察官、飲食店経営、証券会社勤務、保育士、生活保護受給者と様々な立場、年齢、職業の人たちと取材という仕事を解して出会い、話を伺うことができました。

 そしてそういった人たちの中には、「思いをうまく言葉にできない」といった強い気持ちを抱えている人たちも多くいました。

 ある大分県の山間部の村で出会った林業者の男性のことは今も覚えています。仮にAさんとします。Aさんは出会った当時で50代後半。代々、林業の家系で山の杉やヒノキを伐採する一方、植林も行っているとのことでした。

 その取り組みを紹介する番組で取材した際、Aさんは私を山に連れて行ってくれました。山は既に木が伐採された後で、斜面には多くの切株が見えました。

 「ここいらの木は俺のじいさんが植えていたやつだった。それを父親と俺が引き継いで育ててきた。もう五十年、六十年くらいかな。それでようやくこの前、伐採して木材として出した」とAさんは説明してくれました。

 私には、その言葉の意味は分かるものの、あまりにも途方もない時間の為、想像が及ばず、ただ「すごいですね」と安易な答えしか返せませんでした。その様子を見た彼は何かを察したのか、私をある切株の根元に手招きし、その年輪を見るように促しました。

 その断面には中心に向かって幾重にも年輪の線が重ねられています。一年、一年、と木が成長した証。私はAさんがその年輪をわざわざ私に見せた意味を考えながら、じっとそれを見つめていました。Aさんは年輪に右手を近づけ、人差し指と親指をコの字型にして一番、外側の年輪の幾つかの層の幅を計るように当てました。

そして、「これが俺の人生たい」と言ったのです。

その瞬間、私はAさんの仕事に対する思いを支えているものと、今の気持ちを実感することができたように感じました。

 私はこの取材の際、カメラでAさんが年輪に手を当て話しながらはにかむ瞬間を撮影していました。その映像は短い番組の放送時間の中で端的に、しかし、最も彼の思いが伝わる場面として採用され、大きな反響を呼ぶことになりました。

 それは私自身の力というよりも、彼が私を信頼し、話をしてくれたこと。そしてその話を聞いたのが、彼が最も人生の長い時間をささげてきた山という現場だったこと、という様々な外の要因が重なって実現できた表現でした。

 当時、林業者のAさんにとって私に話したことは日常的な何気ない話題だったのかもしれません。しかし、それを私が大切なことだと想像でき、映像でとらえ、切り取らせたのは言葉にならないAさんの生きざまだったのです。

  取材の現場で見つけた言葉にはならない言葉が、私に相手への想像力をよりたくましく成長させてくれる糧となりました。それは同時に今、映像を視聴する相手に感動や価値を伝える、という使命感にもつながり、依頼者様の大切な価値観やメッセージをターゲットに届けるための「共感の橋」となるべき、という考え方と共に、20年以上経った今も私の映像制作の理念を支えています。

想像力を高めるための実践方法

「視聴者の気持ちを想像する力」を磨くためには、まずは依頼者様と入念に話し合い、伝えたいメッセージの背景にある思いや価値観を深く理解することから始めます。依頼者様がどのように感じ、なぜそのメッセージを伝えたいと思ったのかを知ることで、視聴者にとっても「自分ごと」に感じられる内容を構築することができます。

さらに、多くの人々と接する機会を持つことも重要です。異なるバックグラウンドを持つ人々の価値観や視点に触れることで、映像の視点を多角的に広げることができます。たとえば、異なる職業や年代、ライフスタイルを持つ人々と意見交換することで、新たな発見や視点が生まれ、それが視聴者にとって「共感しやすい」映像表現に繋がることが多いです。

映像の内容に応じて、感情表現の工夫や、音楽や映像美の活用を検討し、ターゲット層が感じる「感動」や「安心感」を自然に引き出すことを目指します。視覚的な演出や音の使い方一つで、視聴者の印象や共感の度合いが大きく変わることもあります。たとえば、温かみのあるナレーションと柔らかな色合いの映像を組み合わせることで、親しみやすさや信頼感が生まれ、視聴者が感情移入しやすい環境を整えます。

一緒に作り上げる、伝わる映像

映像ディレクターとして、皆様の伝えたい価値やメッセージを、視聴者に「伝わるコンテンツ」として形にすることが私の使命です。一緒に考え、ターゲット層の感情や価値観に寄り添い、共に作り上げる映像が、視聴者の心に響き、行動を促す力になるよう尽力いたします。

企業や団体のブランディングにおいても、「映像を通して何を伝えたいのか?」という問いを共有しながら制作を進めることで、真にターゲットに届くメッセージを表現します。ターゲットに響く映像を作り上げるため、皆様と共にその価値を形にするコンテンツ作りを大切にしていきたいと考えています。

 これからも株式会社ひぐちワールドをよろしくお願いします。