―はじめての企業映像づくり、一緒に考えてみませんか?(2)
目次
「うちみたいな地味な会社に、映像なんて必要ですかね?」
そう言われることが、よくあります。
でも、私は思うのです。“地味”と“魅力がない”は、まったく別物です。
むしろ、静かにしっかりと信頼を積み重ねてきたような会社ほど、ちゃんと伝われば心を打つ力がある。
今日は、そんな“伝える力”を持たないまま、もったいなく埋もれてしまっている会社について、お話したいと思います。
■ 「アピール下手」は、誠実な会社である証拠かもしれない
ある地域の製造業の社長さんが、こんなふうに話してくれました。
「創業して30年以上になるけど、宣伝とか広報とか、まともにやったことないんです。」
もちろん、それでも仕事は続いてきた。
紹介や口コミで、お客さんが自然とついてきた。
それが昔ながらの「信頼で回る商売」の形だったのだと思います。
でも、時代は変わりました。
求人も営業も、オンラインが当たり前になり、「伝えなければ届かない」世界になった。
その中で、この社長さんの会社は、少しずつ困るようになってきました。
- 若手が入ってこない
- ホームページを見ても「何やってる会社か分からない」と言われる
- 他社と比べて魅力を感じてもらえない
でも実際に工場を訪れてみると、職人さんの目つきが真剣で、ものづくりへの誇りがにじみ出ている。
技術も、空気も、人も、素晴らしかった。
「これ、伝えれば絶対響きますよ」と私が言うと、社長さんは少し照れたように笑いました。
「でも、そういうのをどう伝えたらいいか、分からないんですよ。」
■ 伝えられていないだけで、「伝える価値がない」わけじゃない
私がこれまでに出会ってきた会社の中には、本当に魅力的なストーリーを持っているのに、それが一切表に出ていないところが少なくありません。
たとえば——
- 三代続く町工場。祖父から父へ、父から息子へと受け継がれてきた技術
- 毎朝30分、社員全員で掃除をしてから一日が始まる会社
- 離職率が極端に低く、10年以上勤める社員がほとんどの小さな店舗
これらは、どれも広告代理店が仕掛けたような「キラキラした物語」ではありません。
でも、それを本人たちの言葉で、映像というかたちにできたら——それは唯一無二の「信頼」となります。
私が映像をつくるときに意識しているのは、「その会社のふつうを、ちゃんと伝えること」です。
ふつうであることの中にある、誠実さや文化を丁寧に掘り起こし、映像として伝える。
それが、ブランドを形にするということだと思っています。
■ 「商品」ではなく「人」が伝わると、信頼が生まれる
こんなことがありました。
とある会社から、「コンテンツ制作会社紹介の映像を作りたい」と依頼されたときのことです。
「うちの制作事例とか、設備とかを見せる動画にしたい」と言われたのですが、
何気なく社長さんと雑談していると、社員のことをとても大事にしていることが分かってきました。
- 「現場に出る前には必ず朝礼をする。誰かが悩んでたら、必ず声をかけるようにしてる」
- 「働きやすさで選んでくれた社員に、ずっと残ってほしいと思ってる」
- 「うちみたいな小さい会社に入ってくれる人って、本当に宝物なんですよ」
そう話してくださったその表情が、私は忘れられません。
だから私は、制作事例の映像よりも、社員の日常や、社長とのやりとりに焦点を当てた構成を提案しました。
ナレーションも入れず、ただ社員の声と現場の音だけで構成する静かな映像。
最初は驚かれましたが、納品後にはこう言っていただきました。
「自分たちがやってることを、こんなふうに見せてもらえると思わなかった。
求人にも使えそうだし、お客さんにも“あったかい会社ですね”って言われたよ。」
■ 「会社らしさ」を言語化・映像化するということ
経営者の方にとって、自分の会社のことを客観的に語るのは、とても難しいものです。
- あまり自慢したくない
- ほかと比べると自信がない
- 映像にするほどのことかな? と思ってしまう
でも、そういう会社にこそ、外の視点が必要です。
第三者だからこそ見える「当たり前の中の強み」。
それを言葉にして、構成に落とし込み、映像というかたちで表現する。
私は、カメラマンでも編集マンでもありません。
“伝えるための土台を整えるディレクター”として、聞いて、考えて、整理して、形にしていくことが私の仕事です。
■ まとめ:本当の魅力を「見せる」だけじゃなく「伝える」ために
伝える力がない会社なんて、本当は存在しません。
まだ“伝える言葉と手段”を見つけられていないだけです。
映像はその手段のひとつであり、「伝える言葉」を一緒に探す過程から始まります。
誇張も演出もいりません。
会社の“素のまま”にある魅力を、ちゃんと受け止め、映像にすることが、私の仕事です。
次回予告
次回は「映像は“つくる前”が8割です」と題して、
制作の前に行う「目的整理」や「視聴者設定」「構成案の立て方」などについて、具体的にお話ししていきます。