物語を作る力は、どの分野でも必要とされる技術。私が三年前、初めて小説の執筆に挑戦し、「どうすれば人の心を動かせるのか?」という課題に向き合い、その経験での気づきを今のコンテンツの表現に活かそうと取り組んできました。
今回のブログは、私が小説の執筆の経験から学んだ表現の本質についての気づきを綴っていくシリーズの2回目。物語の情報発信という点で、今回もこの記事が皆さまの何かしらのヒントになれば幸いです。
小説執筆2回目の挑戦
前年の「秀作」受賞を受けて、少しだけ手ごたえを感じた私は翌年、前回よりも長めにひと月をかけて小説を書いてみることにしました。前回はこれまで自分の心の整理の為だけに書いてきた日記を組み換え、物語として再構築する形で作品化しました。
今回はこの工程に加え、以下の点に重点を置きました。
1:推敲に時間をかける
物語が本当に「伝わる」ものになっているのかを何度も読み返すことで検証
※シーンの構成順・文章表現や文体の吟味・テーマの一貫性など
2:クライマックスを軸において、構成を組み立て直す
※文字数の規定は400字詰め原稿用紙55枚~60枚以内。この分量の物語の中でクライマックスを設定した場合、そこで最も読み手の感情が高まるようにしっかりと構成で物語の階段を踏むこと。また、その階段も面白く読めるように工夫すること。
3:自分の無意識を分からないなりに物語に落とし込む
※明瞭に断言できない感情を綴ったものが私の日記の中にあり、それは分からないけれども無視できない魅力がありました。後になって何度読み直しても自分自身、「これは何だろう」と気になって仕方のない部分です。その為、私はこの部分を物語の中で主人公が見る「夢」という位置づけにして加えることにしました。この時の作品は現代劇なので、中世のような雰囲気の「夢」は明確に「夢」として書くことができ、物語にメリハリが生まれました。
そうして書いたものを上記の1~3を注意しながら仕上げていきました。そんな中で、特に1と2に関しては、ビジネス上での情報発信コンテンツを作っていく上でも重要になってくる部分だと気づきました。
例えば1と2をビジネスにおける情報発信に置き換えると、発信するコンテンツの「狙い」が満たされる表現になっているかどうかを検証する工程となります。小説では自ら設定した「テーマ」を表現する為の要素として人物や場面の文体、言葉の選択などを細かく見ていきます。
これが新商品の魅力を訴求する為の映像コンテンツであればどうでしょうか?
例えば新種の柑橘系のAという果物を売り出す映像コンテンツの場合。
狙いはAがいかに消費者にとって魅力的で買いたいと思える品であるか伝える事です。その為には・・・
- Aが魅力的に見える映像が撮影できているかどうか
小説で言うところの人物、風景、物、場面などの描写です。
言葉であれば「琥珀色の滴が弾ける」や「繊細な果肉が舌の上でほどける」など、Aを表す様々な表現を考えることができます。
映像の場合は、Aの外見を美しくきれいに撮影したり、輪切りにして果肉の水水しさを見せたりして「映像言語」にしていきます。他にも映像としては、果物そのものと輪切りの対比や、消費者として想定されうるファミリー層が食べている様子なども考えられるかもしれません。いずれにしてもAの魅力を視聴者に感じてもらえる「映像言語」となっているかどうかを検証していくのです。
- Aの映像で表現された魅力を補強する文字情報で感じて欲しいことを補強する為の文字情報・表現になっているかどうか
Aで言えば、「栄養成分の特長:一般的な柑橘と比べてビタミンCは〇倍!」などの特長や、「産地:日当たり海辺の山間地が糖度〇度以上のAを育む」など映像では分かりにくく、かつ魅力を補強するものである必要があります。
- 組み合わせと順番
ここは特に小説執筆の工程で言うところの2に関わる部分です。上記したビタミンの話はAが実っている畑の様子の映像よりも、Aの果実が輪切りにされた断面が瑞々しく映された映像に表示された方が、視聴者に届きやすくなります。
産地の話は逆に果物そのもののアップよりも、山の斜面の濃い緑に交じり、黄色い果物Aがたくさん実っている美しい風景の映像にテロップとして表示された方が伝わる表現になるのではないでしょうか。
そして、何より視聴者の興味や関心を促し、結果的に購買行動を促進したいと考えるならば、最も視聴者が興味を持ちそうな映像・・・例えば映像コンテンツはAの断面の瑞々しい果肉のアップから始まってもいいかもしれませんし、クライマックスはAを使用し、その特長を生かしたスイーツのビジュアル的な紹介など、できた方が視聴者への訴求力・没入感は増すかもしれません。
いずれにしても小説であれば読者、映像であれば視聴者の興味・関心・感情の流れを想像しながら表現を検討していく。この工程の精度は小説執筆の経験をできたことでぐんと上がったように感じています。それは語彙が増えた、というだけの単純なものではなく、「表現として伝える為の繊細な要素」が認識できるようになったことから来ているのだと思いました。
結果、この時、執筆した作品はありがたいことに第60回佐賀県文学賞で最優秀賞にあたる「第一席」を受賞。審査委員の方からは「物語の中に引きずり込む構成と文章力を感じた」とありがたいコメントをいただきました。
第60回佐賀県文学賞 第一席「浮かんでは沈む泡沫」本編
https://higuchiworld.com/wp-content/uploads/2024/11/550310a176dc945bb3646dff7cb6efdd.pdf
小説執筆経験から学んだ一番大切なこと
この小説執筆の経験から得た一番大きな事は、「分からないものを表現する」ということでした。上述した3の工程です。そして、その為には「自分と向き合わなければならない」という至極当たり前の事に実感を伴って気づけたことが私にとっては大きな収穫でした。
前回の記事でも触れたように、小説は個人の小さな話から始まります。そして個人とは一人の人間であり、人間は突き詰めていくと普遍的な共通性が見えてきます。
ここでいう個人はビジネスにおいては「会社」や「事業主」「商品」「サービス」などに置き換えられると考えています。それぞれの個性と、その特長を物語の中で描いていく中で、それは社会に提供される価値という「普遍性」に繋がってきます。
しかし、最初の個人は「分からない」ものだらけです。私自身、小説を書くときには自分自身の事が、会社の㏋を立ち上げる時には自社の特長がよくわからず、うまく情報発信ができずに苦労しました。私の場合は㏋づくりとブランディングで手助けをしていただいたウェブプロデューサーの方からのアドバイスによって、ようやく自分と向き合うことができ、何とかブランディングを経て、今のような情報発信ができるようになったのです。
よくクライアントの方から「自分のことが一番分からない」と悩みを打ち明けられることがあります。具体的には「自分の事業がうまく整理できないから、情報発信がうまくいかない」。「自分で作っている商品の特長をうまく㏚できない」という悩みです。
お話を伺っていくと皆、商品やサービスの売り上げを上げる為に「伝えること」を先行して考え、苦労して作り上げてきた製品やサービスそのものについて客観的に向き合えていない、という事が多々ありました。
そんな時、私は自分の失敗や苦労の経験の話をお伝えしながら、「伝わる」物語としてコンテンツ表現に昇華する為には、自身の商品やサービス、または事業や会社に向き合うことが最も重要なのだということを伝えるようにしています。
そうすることが一見、遠回りのようで実は最短ルートになることを今では確信しています。
次回は小説作品の受賞式の基調講演を聴いたエピソードや、その後の創作活動の経験の中で「伝わる」表現について気づいた事柄をご紹介していきたいと思います。
