映像制作は“動画を作る”ことじゃないと気づいた日

―はじめての企業映像づくり、一緒に考えてみませんか?(1)


「動画をつくりたいんですけど……」

そう切り出してくださる企業の方が、最近よくいらっしゃいます。

ありがたいことです。でも、私はその言葉を聞いたとき、少しだけ立ち止まるようにしています。

それは、映像制作という仕事を続けてきて、ある日ふと気づいたことがあるからです。

映像制作って、“動画を作ること”だけじゃない。むしろ、それは最後の工程にすぎない。

今日はそんなお話を、最初のブログとして書いてみようと思います。


■ 「とりあえず動画を」という違和感

ある中小企業の経営者の方から、こう相談されたことがあります。

「採用がうまくいかなくて。SNSとかで流せる動画を作りたいと思ってるんです。」

若手が応募してくれない。応募があっても、すぐに辞めてしまう。

いまは求人サイトにも動画があるのが当たり前だし、他社と並んだときに印象に残るものをつくりたい——。

その気持ちはとてもよく分かります。

でも、そのとき私は、すぐにカメラを持とうとは思いませんでした。

「その動画で、どんな人に来てほしいと思っていますか?」

そう問いかけるところから、やりとりが始まりました。


■ 映像の目的が見えた瞬間

じっくり話を聞いていくと、その経営者の方はこんなことを言われました。

「うちはね、派手な会社じゃない。規模も大きくないし、給料も特別高いわけじゃない。でも、人はいい。家族みたいに接してくれる人が多い。」

言葉を探しながら、何度も「人がいい」とおっしゃる。

でもその「人の良さ」は、ホームページには一言も書かれていませんでした。

求人票にも、ありきたりな文章しか載っていなかった。

「だったら、その“人の良さ”をちゃんと映像で伝えましょう」

私はそうお伝えしました。

作業の様子を撮るのではなく、社員さん同士が冗談を言い合っているような場面を、インタビューの合間に挟む。

食堂で笑いながら話している風景を、丁寧に撮っていく。

1分の動画に、人柄がにじむような編集をしました。

後日、「あの動画を見て応募したっていう若い子がいたよ」と連絡がきたときは、本当に嬉しかったです。


■ 映像制作は、“伝えたいこと”を一緒に見つける仕事

映像制作というと、カメラを回す、編集ソフトを使う、音楽をつける——

そういう“技術”の部分に注目されがちです。

でも実際には、それ以前にやるべきことがたくさんあります。

「何を伝えるのか」

「誰に向けて発信するのか」

「どう感じてもらいたいのか」

ここを整理しないまま動画を作ってしまうと、「見た目はきれいだけど印象に残らない動画」になってしまいます。

言い換えると、「何も伝わらない動画」になってしまうのです。

私は普段、ディレクターとして仕事をしています。

撮影も編集もできますが、それぞれの専門家に比べたら、技術はかないません。

でも、だからこそ、「何を伝えるか」を丁寧に考えます。

構成を練り、現場での流れを整え、必要に応じて信頼できるカメラマンや編集者と連携する。

私の役割は、“伝えるための設計図を描くこと”だと思っています。


■ 聞く力がすべての始まり

私はどんな仕事でも、まず「聞く」ことから始めます。

それはインタビューでもあり、雑談でもあり、ブレストでもあります。

相手が抱えている課題は何なのか。

その会社らしさって、どこにあるのか。

本人も言葉にしていなかった「強み」や「個性」を、話の中から探っていきます。

ときには「うちはそんなに大したことやってませんから」と言われることもあります。

でも、そういう会社にこそ、本当は伝えるべき魅力が眠っていることが多い。

私の仕事は、それを一緒に掘り出すことだと思っています。


■ 「動画をつくる前に、“言葉”を探しませんか?」

動画制作は、単に「かっこいいもの」を作る仕事ではありません。

むしろ「その会社の本質」を見つけ、伝わる形に変換していく作業です。

カメラを回す前にやるべきことが、たくさんある。

だからこそ、私は最初にこう言いたいのです。

「動画を作りたい」ではなく、

「何を伝えたいか、一緒に考えてほしい」と言ってください。

そしてその言葉にならない想いを、一緒に整理して、言葉にし、物語として映像という形にしていく——

それが、私の考える“映像制作”の仕事です。


■ 最後に:はじめての映像制作、もやもやしたままで大丈夫です

映像を作りたいけれど、何をどう頼めばいいか分からない。

そう感じている企業の方も多いと思います。

でも、その「もやもや」こそが出発点です。

自分たちの強みを探すために、映像を作る。

それでもいいと思います。

私ができるのは、そういう“言葉にならない思い”を、丁寧に受けとめていくこと。

そして、それを一緒に「伝わる形」にしていくことです。

まずは、話をしてみませんか?


次回予告

次回は「社内に伝える力がなくて、もったいない会社が多すぎる」と題して、

“企業の魅力がなぜうまく外に伝わらないのか?”について、実例を交えながらお話しします。